コロナ危機が加速した「資本主義の理想」は「株主と経営者以外は無用」
雇われて生きることの限界が見えてきた
■新自由主義経済政策とグローバリズムは資本主義を加速させた
1960年代末から1970年代に入ると、高度成長時代が終わり、インフレと高失業率、経済停滞が長期に並存するスタグフレーションが続いた。
それまで各国はケインズ的な大きな政府的経済政策を採ってきた。これは冷戦時代におけるソ連の経済政策に対抗するために福祉政策を採らざるをえなかったからでもあった。
しかし、経済危機から脱却するために、大きな政府を批判するハイエクやミルトン・フリードマンの理論への関心が増した。彼らの理論に基づいた経済政策は新自由主義政策と呼ばれた。
このような状況のなかから、イギリスでは新自由主義の旗手とされたマーガレット・サッチャー政権が1979年に誕生した。同じく新自由主義者のロナルド・レーガン政権が1980年にアメリカに誕生した。
経済危機に対処するために、英米の政府と財界は、旧来の産業を基盤にした戦闘的労働組合を産業もろとも解体した。民営化によって公共サービスを資本蓄積の軌道に組み込んだ。企業と富裕層が負担する税率を大幅に引き下げた。途上国を含む貿易相手国に市場開放と規制緩和を求めた。
新自由主義は、1970年代に資本主義の危機に直面した企業が政府と連携し、 企業利潤を回復するために企業(株主)と経営者の権力を強化したプロジェクトだった。
この政策とグローバリズムがタッグを組んで、企業はコスト削減(特に人件費)のために発展途上国に生産拠点を移動させた。そのために国内産業が空洞化し、国内の雇用が収縮した。消費(需要)は伸びず、デフレは長く続き、企業はさらにコスト削減のためのリストラを繰り返す。これがコロナ危機直前の状況だった。
■コロナ危機対処による在宅勤務テレワークの推進は資本主義を加速させる
大企業にとっては、コロナ危機対処法のひとつであるニューノーマルはオフィス運営コストの削減に結びつくばかりではない。コロナ危機の第二波や第三波により、人と人が接する機会を一層に回避しなければならない事態を予測すれば、企業の無人化であるところのAI化・ロボット化は、より一層に推進されるだろう。
アメリカのアマゾンの倉庫はすでにロボット化されて久しい。スコット・ギャロウェイ著、渡会圭子訳『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』(東洋経済新報社、2018) (https://amzn.to/3iWwjh6)に、そう書いてある。
アマゾン・ジャパンも、2016年の12月から、「Amazon 川崎 FC(フルフィルメントセンター)」において、商品管理システム「Amazon Robotics(AR)」を採用している。商品保管棚を「ドライブ」という掃除ロボットの「ルンバ」を2倍以上大きくしたような自走式ロボットが秒速1.7mで移動する。倉庫エリアの床に埋め込まれたバーコードを読み取ることで、位置を把握しながらエリア内を行き交う。
https://xtrend.nikkei.com/atcl/trn/pickup/15/1003590/120700686/
資本主義体制の株主と経営者にとっては、コストは少なければ少ないほどいい。人件費は少なければ少ないほど正しい。つまり被雇用者はゼロであるのが最高最善である。
コロナ感染拡大を防ぐという大義名分を得ることによって、資本主義は加速化する。資本主義の王道はコスト削減でしかないのだから、そのように進む。だから、労働者個人は、被雇用者としての生き方以外の生き方を考えておかなければならない。
資本主義体制の中で長く生きてきた私たちは、白井聡の言葉を借りれば、「資本主義を内面化している」ので、資本主義以外の経済体制のヴィジョンがない。資本主義の外部がどんなものか想像できない。少なくとも、筆者はそうだ。あなたは、どうだろうか。
- 1
- 2
KEYWORDS:
藤森かよこ
『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください』
1600円+税